サカナクション「忘れられないの」コード進行と弾き方をプロが徹底分析
2019年にリリースされたサカナクションのアルバム『834.194』のリード曲として、いまなお音楽ファンやプレイヤーを魅了し続ける名曲「忘れられないの」。ソフトバンクや資生堂アネッサのCMソングとしても国民的な知名度を誇り、80年代日本のシティポップ黄金期を想起させる洒脱なサウンドデザインは、国内外のストリーミングシーンで確固たる評価を獲得しています。
アコースティックギターでの弾き語りやバンドカバーに挑戦しようとする演奏者の間では、「どうすればあの洗練されたエモい響きを再現できるのか」「原曲のバレーコードが難しすぎて挫折しそう」という声が絶えません。原曲の和声構造に潜む音楽理論的な仕掛けから、初心者でも挫折しないカポタストの活用法、グルーヴの核を担うベースラインの攻略法まで、実践的な演奏ノウハウを余すところなく解き明かします。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:原曲キーはE♭メジャー(変ホ長調)であり、80年代シティポップの情緒を醸成する「メジャーセブンス(M7)」と「浮遊感のある分数コード」が和声の核心である。
- 要点2:ギター初心者はカポタストを3フレット(Capo 3)に装着し、Cメジャーフォームに置き換えることで、難関バレーコードを回避しながら美しく弾き語りが可能になる。
- 要点3:単なるルート弾きでは原曲の質感は再現できず、ベースの16ビート・シンコペーションとギターの軽快なカッティング(ゴーストノート)の連動が不可欠である。
【楽曲の背景】834.194の金字塔|山口一郎が挑んだ80年代シティポップの再構築
アルバム『834.194』のDisc 2「194」の冒頭を飾る「忘れられないの」は、フロントマンの山口一郎が日本の歌謡曲・ニューミュージックの黄金期に対する敬意を注ぎ込んだ意欲作です。当時の特番インタビューや公式ドキュメンタリーにおいて、山口は「ただの懐古主義(ノスタルジー)ではなく、80年代当時のミュージシャンたちが命を削って構築した圧倒的に緻密なコードワークとレコーディング技術を、現代の機材と感覚で完全再現したかった」という趣旨の告白を残しています。
1980年代初頭の山下達郎、大滝詠一、あるいはカルロス・トシキ&オメガトライブを彷彿とさせるアレンジは、音色の選定からミックスに至るまでミリ単位のこだわりで満ちています。ファンクやディスコの文脈を取り入れた軽快なビートの上に乗る、哀愁を帯びたメロディライン。そのエモーショナルな質感を生み出している最大の要因こそが、緻密に計算されたコードプログレッションにあります。

【コード進行分析】80年代シティポップ調の「エモい和音構成」の真相
「忘れられないの」の原曲キーはE♭(変ホ長調)、テンポは心地よい疾走感を伴うBPM 116前後に設定されています。この楽曲が放つ独特の「エモさ」の正体を音楽理論の観点から紐解くと、シティポップの王道ともいえる高度な和声操作が浮かび上がります。
サビをはじめとする主旋律の骨格は、いわゆる「IVmaj7 → V → IIIm7 → VIm」という王道進行(Just The Two of Us進行のバリエーション)を基調としています。原曲キー(E♭)の実音で表記すると、主に以下のような流れを描きます。
【サビの基本コード進行(実音)】
A♭maj7 → B♭ → Gm7 → Cm7 (または A♭maj7 → B♭/A♭ → Gm7 → Cm7)
このコード進行が聴く者の琴線を揺さぶる理由は、トニック(主音)であるE♭コードから始まるのではなく、サブドミナントであるA♭maj7から開始する点にあります。ルート音(主音)に着地せず、長7度のテンションを含んだメジャーセブンスから滑り出すことで、地面からふわりと足が浮き上がるような浮遊感が生まれます。
さらにベースラインが経過音としてオンコード(分数コード)を巧みに通過し、ドミナントモーションの解決をあえて焦らすことで、聴き手に甘美な焦燥感とノスタルジーを抱かせます。哀愁がありながら決して湿っぽくならず、都会的で洗練された空気感を醸し出す構造こそが、この和音構成の真相です。
【難易度と演奏スタイル比較】原曲キー vs 初心者向けカポアレンジ徹底検証
ギターやピアノで実際に演奏する際、プレイヤーの熟練度や編成によって最適なアプローチは大きく異なります。主要な演奏スタイルと難易度の違いを比較整理しました。
| 項目 | 詳細・数値データ | 一般的な基準・相場 | 編集部の見解・評価 |
|---|---|---|---|
| 原曲キー演奏(ギター・カポなし) | Key: E♭(フラット3つ) バレーコード含有率:約85% | 上級者・セッション向け 難易度:★★★★☆ | 高フレットでのテンション保持が必要。バンドで音抜けを狙うなら必須だが初心者には過酷。 |
| カポ3装着(Capo 3 / Cフォーム) | プレイキー:C(実音E♭) コード:Fmaj7, G, Em7, Am7 | 初心者〜中級者向け 難易度:★★☆☆☆ | 最もおすすめのアプローチ。開放弦の鈴鳴り感が加わり、アコギ弾き語りに抜群の相性を示す。 |
| カポ1装着(Capo 1 / Dフォーム) | プレイキー:D(実音E♭) コード:Gmaj7, A, F#m7, Bm7 | 中級者向け 難易度:★★★☆☆ | コードフォームの指の開きが小さく、フィンガーピッキングでのアルペジオに適した響き。 |
| ピアノ・キーボード伴奏 | 黒鍵主体のE♭スケール 9thテンションの多用 | 中級〜上級者向け 難易度:★★★☆☆ | ローズ・ピアノ風の音色でトップノートを固定すると、一気にシティポップの空気感が立ち上がる。 |
| ベースライン(TAB譜) | 16ビート・オクターブ奏法 ゴーストノート多用 | 中級者向け 難易度:★★★☆☆ | 草刈愛美の神髄。ルート維持だけでなく、裏拍の跳ねと的確なミュートが楽曲の命運を握る。 |
大手の楽譜閲覧サービスであるU-FRET(Uフレット)等を利用する場合、原曲のコード譜面は変ホ長調特有のフラット系コードが羅列されます。ギター初心者の方は、サイト内の移調機能を使い「Capo 3(移調 -3)」を選択してください。これにより、視覚的にも演奏的にも極めて平易なCメジャーフォームへと瞬時に変換されます。

【実態検証】ギター初心者が直面する「バレーコードの壁」と簡単コード押さえ方
SNSや知恵袋などのコミュニティでは、「『忘れられないの』をアコギで練習し始めたが、B♭やGm7の人差し指セーハが痛くて音が鳴らない」という悩みが頻繁に投稿されています。原曲通りのE♭キーで演奏しようとすると、ほぼすべてのコードで人差し指を寝かせて弦全体を押さえるバレーコード(セーハ)を要求されるためです。
この挫折ポイントを回避し、かつシティポップらしい洒落た響きを損なわないための簡単コード押さえ方が存在します。カポタストを3フレットに装着したうえで、以下の3つのポイントを実践してください。
① Fコードは人差し指セーハを避けて「Fmaj7」で押さえる
初心者が最も躓く1フレット全セーハのFコードは、この曲においては禁物です。むしろ「Fmaj7(1弦開放、2弦1フレット、3弦2フレット、4弦3フレット)」を押さえてください。人差し指を1弦から離して開放弦(E音)を響かせることで、押さえやすくなるだけでなく、シティポップに欠かせないメジャーセブンスの洗練された浮遊感がそのまま手に入ります。
② Gコードは小指で高音弦を保持するテンションフォームを採用する
単純なフォーク風のGコードではなく、1弦3フレット(小指)と2弦3フレット(薬指)を同時に押さえるフォーム(Gadd9風の響き)にすることで、コードチェンジ時のトップノートの移動が滑らかになり、現代的な洗練度が増します。
③ 弾き語りのコツは「ストロークの右手を止めない16ビートのゴーストノート」
ギター弾き語りで原曲の良さを引き出す最大のコツは、左手のコードよりも右手のカッティングにあります。ピックを弦に強く当てすぎず、手首のスナップを柔らかく利かせながら、音を鳴らさない空振りストローク(ブラッシング)をアクセントとして混ぜることで、アコギ1本でもドラムとベースが鳴っているかのようなファンキーな推進力が生まれます。
【ベース&鍵盤の役割】原曲のノスタルジーを決定づけるベースTAB譜とピアノ楽譜の勘所
「忘れられないの」をバンドで再現する際、あるいはキーボードやベース単体でコピーする際に外してはならないのが、草刈愛美のベースラインと、岡崎英美のキーボードワークが織りなすアンサンブルの妙です。
ベースTAB譜を追うと明白なように、この曲のベースは決して「全音符や2分音符でルートを伸ばすだけ」の伴奏ではありません。シックのバーナード・エドワーズを思わせる、オクターブの跳躍とスタッカート、そして16分音符の裏拍に配置されたゴーストノートが楽曲のドライヴ感を牽引しています。特にサビ前のブリッジ部分で見せるスライドや細やかな経過音の美しさは、アンサンブル全体のグルーヴを極限まで高めています。
一方、ピアノ楽譜を演奏する際のポイントは、テンションコード(特に9thや11th)のヴォイシングです。アコースティックピアノの煌びやかな音色ではなく、フェンダーローズや名機YAMAHA DX7を意識したエレクトリックピアノの丸みとアタック感のある音色を選択し、右手で高音部の和音をパーカッシブに刻むことで、80年代のスタジオレコーディング特有の甘い質感が立ち上がります。

一般に知られていない盲点とネットの誤解
ネット上の簡易コード譜やカバー動画のなかには、「コード進行を単純化しすぎて、楽曲の魅力が半減してしまっている」事例が散見されます。初心者が陥りがちな最大の盲点は、「すべてのセブンスやテンションを省略して三和音(メジャー/マイナー)だけで弾いてしまうこと」です。
たとえば、サビの頭を「Fmaj7」ではなく「普通のF」で弾いてしまうと、一瞬にして昭和のフォークソングや直線的なパンクロックのような素朴な響きに変わってしまいます。この楽曲の洗練された切なさは、和音に含まれる不協和スレスレの「長7度(M7)」や「9度(9th)」というテンションノートによって生み出されているためです。押さえやすさを追求する場合でも、メジャーセブンスの響きだけは絶対に省略してはなりません。
【プロの結論】演奏者が目指すべきスタイル別の判断基準
「忘れられないの」のコピーに挑むにあたり、自身のスキルと目的に応じた選択基準を以下のように整理しました。
【カポ3+Cフォーム弾き語りをおすすめする人】
アコースティックギター初心者〜中級者、歌をメインに聴かせたいシンガーソングライター。指先への負担を最小限に抑えつつ、開放弦の美しい余韻を活かしたアコースティックアレンジを即座に完成させたい場合に最適です。
【原曲キー(カポなし)またはバンドスコア完全再現に挑むべき人】
エレキギターを担当するバンドマン、ファンクやシティポップのアンサンブルを極めたいプレイヤー。ハイポジションでのカッティングによる音抜けや、草刈のベースラインとの完全な帯域分離を追求する場合、原曲キーでの緻密なヴォイシング再現が不可欠となります。
【忘れられないの コード】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:ギターを始めたばかりですが、バレーコードが全く押さえられなくても弾けますか?
A1:十分に演奏可能です。カポタストを3フレット(Capo 3)に装着し、Cメジャーフォームを選択してください。難所のFコードは人差し指セーハをせず、1弦を開放する「Fmaj7」に差し替えることで、初心者でも初日から美しいコードチェンジが可能です。
Q2:Uフレットなどのコードサイトで原曲の音源と一緒に練習するにはどう設定すればよいですか?
A2:サイトの移調設定をデフォルト(原曲キー)のままにし、ギターの3フレットにカポタストを付けて「Capo 3 / 移調 -3」の表示に切り替えてください。これにより、押さえる形は簡単なCフォームのまま、実際に出る音は原曲のE♭キーと完全に一致するため、音源に合わせて気持ちよく練習できます。
Q3:ベースで演奏するとき、最も意識すべきリズムの注意点は何ですか?
A3:音の「切り際(ミュート)」と「裏拍のアクセント」です。音を伸ばしっぱなしにせず、左手の指を軽く浮かせて弦の振動を止めるスタッカートを徹底することで、ドラムのスネアとハイハットに完璧に噛み合うシティポップ特有の軽快なグルーヴが生まれます。
まとめ:今後の動向と失敗しないための判断基準
サカナクションの「忘れられないの」は、単なるキャッチーなポップソングの枠を超え、日本のポピュラー音楽史が育んできた高度な和声理論とリズムアレンジの粋が詰まった教科書のような名曲です。コード進行の設計思想やテンションノートの役割を理解して演奏すれば、初心者であってもそのエモーショナルなサウンドスケープを自在に引き出すことができます。
まずはカポタストを活用したCフォームでコードチェンジの滑らかさを掴み、徐々に右手の16ビート・カッティングやベースとのアンサンブルへとステップアップしていくこと。和音の響きの背景にある理論と美学を指先で体感しながら、名曲の深層を味わい尽くしてください。 (出典: 忘れ られ ない の コード(Yahoo!ニュース))